初めて訪れた美術館は文京区にあった
先日、春の訪問を感じる陽気の中で、東京へ行ってきました。向かったのは、東京大学弥生門の斜め前にある弥生美術館。
品のあるこじんまりとした佇まいの美術館です。
こちらで開催されているのは、漫画家「青池保子展Contrail航跡のかがやき」。少女漫画家の青池保子さん漫画家生活60周年を記念しての企画展示です。
青池保子さんは、1948年山口県下関市出身。1963年15歳(中学3年)の時に「さよならナネット」でデビューし、高校1年の時に連載スタート。
これだけ聞いても驚くばかりです。 高校生に週刊漫画の連載って、そんなことやっていいのか?とも思いますが、時代は昭和。今とは違います。
学業もあり、大変忙しい生活だった事は簡単に想像できますね。
制作についてのインタビュー記事を読んでみると、毎週ネームを作って航空便(今じゃインターネットであっという間ですが)で東京へ送って、担当編集と電話で打ち合わせて原稿を作って航空便でまた振り返って・・・というような日々を過ごされていました。
学校の勉強はというと、授業時間だけ。それでも優秀な成績だった。
その頃から60年、ずっと漫画家として第一線で活動をされてきました。このブログを読んでいる皆さんの中にも、青池作品のファンの方や読んだことのある方もおられるのではと思います。
60年間かけて、ネタ、締め切りに追われ、創作エネルギーを保ちながら、これ以上ないほど専門的で創造性の仕事してられました。
そのような60年の中で青池先生はたくさんの作品を世に送り出しました。
例:「イブの息子たち」「エロイカより愛をこめて」「エル・アルコンー鷹―」「アルカサルー王城―」「修道士ファルコン「ケルン市警オド」など多くの代表作が挙げられます。
私も「エロイカより愛をこめて」は、昔、読んだことのある漫画で、出てくる銃器類や乗り物が丁寧に描かれていて、面白いなぁと思っていた記憶があります。
さて、今回私が観てまいりました展覧会は、1963年青池保子先生のデビューから2023年に漫画家生活60周年を迎えたことを記念しての企画。
弥生美術館の1階から3階までの展示空間を使い、2月1日から3月30日までの前期、4月2日から6月1日までの後期に分けて、カラーイラスト原画とモノクロ原画、そしてネームなどの資料も含めて前期・後期合わせて300点多めを展示しています。
美しさカッコよさの共存するカラーイラスト原画
展示は、最初の頃から順に追っていく内容になっていたと思います。
私が展示室に入ったとき、ベテランの青池ファンらしきお二人の女性が、「初期のころからこれだけ描いてたのね」と言葉を漏らしていたのがとても気になり、私は作品を凝視していきました。
作品保護のため、少し照明を落とした空間には、たくさんの作品や資料がありましたが、やはり目を引くのはカラーイラスト原画!
まさに驚愕です!
今回は、作品撮影がほとんどできません、数点のみOKでした。こちらは今回の記念企画のために描かれた原画です。下関会場の物です。
カラーイラスト原画では、その美しさが、いかんなく発揮されていました。
線一本に生命が宿っているかのような美しさと細密さ。 特に髪の毛や衣装の文様に感じました。
今回、展示を見るために周囲のいくつかの資料を事前に購入して読んでいたのですが、線画で絹と綿の布地を描き分けられる腕前と周囲から言われていたそうです。
また、カラーイラスト原画を観ていると、美しさとカッコ良さが同居し、そこに知性、教養、今にも動きそうな雰囲気などを感じました。
さらに色使い!これも特徴の一つ。
繊細な線に合わせて塗り分けられていく画面。 人物、衣装、道具、背景などの質感がよく考えられて色付けされている。
重厚な歴史作品に合った色、現代的な作品に合った色。美術史に造詣の深い青池先生ならではの魅力です。
そう、美術史に造詣が深い。青池先生の作品には、ビザンチン美術やクラーナハ、ルーベンスなどの作品が色々と登場します。
それらの作品にキャラクターを組み合わせて描いてたりと、美術史についての興味と教養がなければできないのでは。
こちらは、2階の展示スペース前にあったパネル。 美術史への造形の深さを感じる違和感とドラマティックな展開を予想させる妥当なイラスト。
さらに、人物以外の描き込み、道具や背景、乗り物などもしっかりと調査され、細密に描くことによって、物語に本物感を与え下支えとして機能しているのだろうかと考えました。
今回、展覧会を訪れて、私、青池保子先生の作品をたくさん読んでみたいと感じました。
わたくし、美術史にとても興味があります。
美術史はいわば世界史の一部です。青池先生の作品の中には、たくさんの美術史に名前を残している作家が登場しますし、歴史的な背景もしっかり調べてあるので、そういった面から青池の作品については追っていくのも楽しいかなと思いました。
キャラクターが物語を創る
作品を書いているのはもちろん青池先生。
インタビュー記事をいくつか読んでみるとこのような記述を見つけました。
青池先生は、ある時からキャラクターが物語を作っていくということを実感されています。
物語は作者が決め、キャラクターはそれに応えていく・・・というわけではなくキャラクターの存在がメインになっていったということです。
素晴らしい画力を持って描かれたキャラクター達は作者を刺激し、様々なストーリーを創造させます。
ほんとに画力のすばらしさは、物語を豊かにします。
これだけ美しく、かっこいいキャラクターが多いと「推し」もできるんだなと。
「青池保子展Contrail航跡のかがやき」
会場は、弥生美術館(東京大学弥生門斜め前)
期間は2月1日から3月30日までが前期、4月2日から6月1日までが後期です。展示作品の変更が相当あります。
機会があればもう一度訪れて鑑賞したいと思った展示でしたので、写実画が好きなアートファンの方にもおすすめです。
グッズ紹介
弥生美術館にもたくさんの青池作品グッズが販売されていました。購入してきたものを紹介します。
家漫画生活60周年記念青池保子画集。現存するすべてのカラーイラスト700点超を注目する画集です。非常にボリュームがあります。5940円。
「エロイカより愛をこめて」のジェイムス君(けちんぼな経理)がドーンと描かれているA5ノート。770円。(モデルはレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ。ケチなミュージシャンとして昔はよく音楽雑誌に書いてあった。)
A4クリアファイル。550円。
手ぬぐい(縦90cm 横35cm)写真を撮るために掛け軸風にしてみましたので上下についている棒はつきません。1210円。
アクリルスタンドキーホルダーです。990円。
他にもグッズやTシャツ、マスキングテープなどが売っていました。
追伸:私、昔の「エロイカより愛をこめて」を少し読んだことがありましたが、その時は知りませんでしたが、主人公のエロイカ(ドリアン・レッド・グローリア伯爵)は、ロックグループのレッド・ツェッペリンのボーカル:ロバート・プラントがモデルになっているんですね。
ジェイムズ君は、ジミー・ペイジ、ボーナム君は、ジョン・ボーナム。
それと、軍事評論家の岡部いさくさんが何このストーリーに参加し物語の構築に協力されていたのですね。
最後まで読みましたでありがとうございます。(ブログの調子が失礼で妙な文言になってしまい申し訳ありません。勝手に変換されてしまいようで。)
参考資料
「青池保子オファーが識男たちとマンガの冒険」、芸術新潮編集部編、2025年1月30日、株式会社新潮社
「青池保子 エロイカより愛をこめての世界」日下部行洋編、2025年2月28日、株式会社普通社
「総集編 青池保子」、青池保子著、2022年10月30日、株式会社河出書房新書
執筆者
青木 雅司
美術検定1級アートナビゲーター
画像の左上が私です。このような画像を時々制作しています。
アクリル絵の具を使ったマーブリングを撮影して、自分で撮った画像と組み合わせています。
昔、大阪と名古屋でラジオ局のディレクター長いことやってました。
あいちトリエンナーレ2013メンバーでした。